「二銭銅貨」（江戸川乱歩） | ラバン船長のブックセイリング

反省！これまで乱歩を軽く見ていた

「二銭銅貨」（江戸川乱歩）
（「日本文学100年の名作第1巻」）
　新潮文庫

「二銭銅貨」（江戸川乱歩）
（「江戸川乱歩全集第1巻」）光文社文庫

「二銭銅貨」（江戸川乱歩）
（「江戸川乱歩傑作選」）新潮文庫

ある日、｢私｣の机上の
二銭銅貨が二つに割れ、
中に暗号文が隠されていることを
松村は見つける。
それを解読した松村は、
泥棒の隠し金を手に入れたと
喜び勇んで帰ってくる。
｢俺は君より頭がいい｣と
豪語する松村に対し、｢私｣は…。

反省しています。
私はこれまで江戸川乱歩を
軽く見ていました。
これは純文学ではないと。
推理小説に過ぎないではないかと。
間違っていました。
そもそも純文学とそうでない文学と
どこで線引きをするというのか。

思い直すきっかけになったのが、
本書｢日本文学100年の名作第1巻｣です。
1914年～1923年に発表された
短編小説11編を収めています。
その最後を飾っているのが本作品。
他の10編と比較して遜色ない、
この10年の代表作として
堂々たる輝きを放っています。

日本文学100年の名作第1巻 1914-1923

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【主要登場人物】
｢私｣
…無職の青年。下駄屋の二階の
　六畳一間にゴロゴロしている。
松村武
…｢私｣の友人。下駄屋の下宿の同居人。
　二銭銅貨に隠された暗号文を発見、
　解読する。
紳士泥坊
…五万円を盗み逮捕されるが、
　金の隠し場所を自供しない。

本作は乱歩の処女作品です。
後の明智小五郎シリーズほどの
派手さはありませんが、
最後の｢私｣の大どんでん返しの
小気味よさなどはいかにも乱歩です。

しかし本作品、
ミステリーとしての完成度は、
現在の物差しで測った場合、
決して高いものではありません。
謎解き的な部分はあるものの、
読者がいろいろな状況から
推理を楽しむ余地はありません。
トリック的なものとして、
二つに割れる二銭銅貨
(現代の技術を持ってしても
難しいと思うのですが…)が
登場しますが、
詳しい説明はありません。
探偵も登場しません。
そもそも、
作品冒頭に描かれる｢紳士泥棒｣と
実は関係がないため、
事件すら起こっていないのです。
現代の基準からいえば、
とてもミステリーとは
いえない作品です。

江戸川乱歩全集第1巻屋根裏の散歩者 (光文社文庫)

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しかしこの時代、
探偵小説というジャンルは、
海外作品の翻訳ものが中心でした。
日本人作家はまだまだ
試行錯誤段階だったこの時期に、
乱歩がひとつのスタイルを
提示したことには
大きな意味があったと思うのです。

この作品の発表により、
乱歩は推理小説作家として
輝かしいスタートを切ります。
ほどなく次の傑作
｢Ｄ坂の殺人事件｣｢心理試験｣を発表、
明智小五郎を世に送り出します。
やがて明智小五郎はシリーズ化し、
そして少年探偵団や
怪人二十面相へと結実、
日本の推理小説はそのファン層を
大きく広げていくことになるのです。